前略、ドデカ愛の真ん中より

※個人の感想です

「アンチヒーロー」のMVについて真剣に考えてみた

 「発見と疑問」収録曲、アンチヒーロー。ハーフを初めて知った時からけっこう好きで聞いている曲であり、初めて行ったライブのアンコール曲でもあったのでけっこう思い出深い大好きな曲だ。でも、未だに頭の中で処理しきれないことがある。

そう。MVだ。

 初めてアンチヒーローのMVを見た時のことは未だに鮮明に覚えている。曲をけっこう聴き込んでからMVを見たので、曲調や歌詞からは全く想像もつかなかった視覚情報にひたすら混乱して、そして何も分からないまま映像が終わった。それからずっと「分からない」ままだったが、「分からない」という状態にあることに今更モヤモヤしてきたので、自分なりの答えを導き出すべく「アンチヒーローのMV」についてひたすら考えてみた。以下に書かれるのは、その思考と考察の成果である。

 

1.鎖は何なのか?

 アンチヒーローのMVにおいて、序盤から強烈なアッパーを噛ましてくるのが「鎖」である。歩いている大晴さんが持ち上げた手首についた鎖。先端は前を歩く女性(梅本さん)が握っていて、うきうきで鎖を引く女性と、よろけながらもついていく大晴さん。かなりパンチのある光景だ。

 この「鎖」について考えるにあたって、どうしても外せない要素である歌詞がある。これまた序盤から強烈なアッパーをかましてくる、

「言うなれば遺伝子レベルで繋がってた奇跡と思っていたいんだよな」

という歌詞だ。「言うなれば」「思っていたい」といった言い回しから、この歌詞は「遺伝子レベルで繋がってた」という認識に縋っている様を表現しているのだろうか。「遺伝子レベルの繋がり」が物理的なものなのか比喩なのかは分かりかねる。しかし、「手を繋ぐと、お互いの手と手の粒子が混ざって二人の手の粒子の境目が無くなる」という話を聞いたことがある。このブログを書くにあたって改めて調べたものの、はっきりとしたことは分からなかった。だが、「遺伝子レベルの繋がり」と呼べるような物理的な繋がりは、思ったより簡単に得られるものであることは確かなのかもしれない。

 MVに話を戻す。件の鎖は、「遺伝子レベルで繋がってた奇跡」を言い終わるあたりで画面に登場してくる。「遺伝子」という言葉にDNAの二重螺旋が含まれるのなら、この鎖は「遺伝子レベルで繋がってた」という歌詞の比喩なのではないだろうか。ビジュアル的に「奇跡」と呼ぶには暴力的な気がするが、「別れの日だって怖くならない」と歌詞が続いているように、「別れ」を怖がったりするくらいにはその暴力的な繋がりに縋るほどの何かがあったのだろう。また、2番の「暮らしなら順風満帆」のところでちょうど鎖が画面内に入ってくるので、一応そこまで険悪では無いと思いたい。もしくは歌詞とビジュアルが相反していることに対する皮肉なのかもしれない。

 鎖そのものについて考えたところで、もう少し細部を掘り下げてみる。例えば犬を散歩する時、鎖(リード)は首に繋ぐものである。しかし、MVでは鎖は「手首」に巻かれている。これについて、少し逸脱しているかもしれないがひとつ言及したい事柄がある。「キスの部位には意味がある」という言説だ。手首へのキスは「欲望」、そして鎖の反対側を持っている手のひらへのキスは「懇願」を意味するらしい。鎖が着いている側、持っている側の部位が「相手から向けられている感情」を意味すると考えると、見えてくるストーリーもまた違ったものになってくるのではないか。

 また、私の見間違いでなければ、鎖が着いているのは「左手首」である。終盤の食事シーンを見るに、MV内の設定上左利きということでは無さそうなので、利き手では無い方の手を繋がれているということになる。また、鎖を外そうとしているシーンが2番にあるので「鎖を完全に受け入れている訳では無い」「鎖は自力で容易に外せるものでは無い」という2点が成立する。しかし、女性側は鎖を持っているだけなので、振り払って逃げることは不可能では無いはずである。そして、鎖を持っているだけ、ということは、女性側はそれを簡単に手放すことができる、ということである。「鎖」という物理的なものを通して見ると不思議な光景だが、この「鎖」を「関係」等に置き換えて、キスの意味を絡めて整理してみるとどうだろうか。

・欲望(束縛)を完全に受け入れている訳では無いが、振り払って逃げる(関係を断つ)ことには踏み切れない

・懇願じみた愛情を簡単に手放せる立場にあるのに、絶対に手放さない

このような、相思相愛であるのに歪な関係性が浮かび上がるのである。この2人の関係は「遺伝子レベルで繋がっている」筈なのに、何かがすれ違っている。しかし、すれ違った先でまた出会って絡まって、物理的な形で表すならMVの鎖のシーンのようになってしまっているのではないだろうか。このMVにおいて鎖は、曲のコンセプトである「相手との壊れそうな関係さえもポジティブな感情で弾け飛ばしたパーティロックチューン」の、「相手との壊れそうな関係」を視覚情報として成立させるキーとなっているのである。事実、どちらかの些細な行動で鎖の片側は簡単に地面に落ちてしまう。それでも、この二人の間にあるのは確かに「遺伝子レベルの繋がり」と呼べるようなものなのであろう。

 

2.鎖の行先

 2人の繋がりを表すような鎖だが、MVの中ではずっと2人を繋いでいる訳では無い。「大晴さんが鎖で壁に繋がれているシーン」「手首に鎖が着いたままの大晴さんが1人で外にいるところに雨が降ってくるシーン」がそれぞれある。

 ここまでの考察を踏まえると、鎖が壁に繋がっているシーンは「愛情の行き先が一時的に無くなっても関係を断つことに踏み切れない」という心情の現れだと考えることが出来そうだ。「怒ってみたり笑ってみたりして 続いてくれよ」という歌詞が「祈り」ではなくキスの意味通りの「懇願」だとしたら、腕に絡みついた束縛に縋るような感情なのかもしれない。

 「手首に鎖が着いたままの大晴さんが1人で外にいるところに雨が降ってくるシーン」では、外で立ち尽くす大晴さんの画面が切り替わって、手招きする相手の顔が入ってくる。その後、いくつかシーンを挟んだ後で大晴さんはどこかに駆け出すものの、これが「単純に雨を避けるため」なのか「自由の身であるにも関わらず自ら相手のところに戻っていく」なのかは分からないが、後者だと考えるとストーリー的になかなか面白くなると思う。

 金属がやがて錆びて朽ち果てていくように、相手にずっと同じ感情を向けたまま生きていくことはできない。これについて、もうひとつ強調されているシーンと共に次の章で論述する。

 

3.「食事」のシーン

 MV内でもう一つ印象的なのが「食事」である。MVの最初の画面で映るのは、楽器でも演者でも草でもなく、「1人分の食卓」である。その後、特筆すべきシーンは曲の終盤、ギターソロのところで登場する。「大晴さんがパンもしくは水に手を伸ばし、それを制止されつつ怒られる」シーンである。冗談だよ~みたいな感じで水のグラスが返却されるシーンが最後の方に挟まれているが、その時の大晴さんは「無表情」である。怒るでも笑うでもなく、無表情。そして流れている歌詞は「怒ってみたり笑ってみたりして続いてくれよ」である。これこそ「相手との壊れそうな関係さえもポジティブな感情で弾け飛ばしたパーティロックチューン」というキャッチコピーの象徴たるシーンだと思う。食事を制止するという悪戯は、食べるのが好きな人間からしたら「生殺与奪の権を突然他者に奪い取られる」のと同義だ。そこまで感じなくとも、突然食事を制止されたら割と誰でも怒ったり動揺したりすると思う。

 相手がちょっとした悪戯でやって笑っていることもこちら側からしたら怒るでも笑うでもなく動揺で何も出来ないことはあるし、なんの反応も無いことは相手からしたらつまらないかもしれないし。そんな価値観の違いが積み重なって、繋がりはやがて少しづつ朽ち果てていく。それでも、君といたい。怒ったり笑ったり喧嘩したり束縛し合ったり、離れたら歩み寄って、悪いことをしたら謝って、そんなことを繰り返してまた繋がり方を更新して、一緒に生きていきたい。最後の最後で何かを思い出したように雨の中を走り出した瞬間、相手から差し出された食事を前のめりで食べた瞬間、まとわりついていた錆を振り払って新しい2人になれたのなら嬉しいなあと思う。

 

 

4.まとめ

 「アンチヒーロー」は「反主人公」と訳され、「ダークヒーロー」と言い換えられる。人生の主人公は自分しかいない、が無条件で成り立つなら、「僕らにとって互いがアンチヒーロー」は反主人公である「アンチヒーロー」になれるのは君しかいない、といったところだろうか。相容れなかったり、口うるさく感じたり、関係を続けていくことが嫌になったりすることもあるだろう。でも、「反主人公」が人生のストーリーに存在するからこそ、より楽しい人生を送っていけるのならどうにかして歩み寄る価値はある。「僕ら一人一人がドラマだ」と歌う前から反主人公と遺伝子レベルで繋がっていた奇跡を歌って、それを「アンチヒーロー」と名付けたことは興味深い。

 これからも私はアンチヒーローを聴くし、突然MVがツボに嵌って何度も見返すだろうし、セトリ入りしたら満面の笑みで手拍子をする。多分。そして、A-Zの流れから察するに「アンチヒーロー」という曲の登場人物達は結果的に離れ離れになってしまうんだろうけど、もし曲の世界とMVの世界がパラレルワールド的なものだったら、MVの世界のふたりはどうか幸せであって欲しい。

 

ありふれた夜もきっと終わる

踊るように歌おうぜ

ロック!ソング!ダンス!

 

おわり。

 

参照

Half time Old、1stシングル「A-Z」を全曲解説! | OKMusic

「キスってこんな意味があったんだ!」 魚を使った解説イラストに笑う – grape [グレイプ]

アンチ・ヒーローとは? 意味や使い方 - コトバンク

 

Half time Old「アンチヒーロー」Music Video - YouTube